イベント情報 栃木DARC(ダルク)

回復支援施設における「刑の一部執行猶予制度」利用者の受け入れについて

特定非営利活動法人 栃木DARC
代表理事 栗坪千明

 平成28年6月から施行される「刑の一部執行猶予制度」では、3年以下の刑罰を受ける者が対象となる。その多くは覚せい剤事犯者が多く含まれており、執行猶予期間中の社会内処遇(地域支援)のあり方が焦点となっている。 薬物依存回復支援の社会資源としては全国にあるDARC(ダルク)が大きな役割を担うであろうという前提から制度施行後に考えられることを想定したいと思う。

依存症の回復支援

 近年ダルクのような薬物依存のリハビリ施設をその機能性から「回復支援施設」と呼ぶようになってきている。ひとくちに回復支援施設といってもそれぞれが独立した存在であり、運営、プログラム、連携機関においても様々である。全国に50カ所以上あるダルクの中で、それぞれの領域をパッケージングしたような施設形態をとっている栃木ダルクを平均的な回復支援施設として捉え回復支援のあり方を紹介し、本題である「刑の一部執行猶予制度」利用者の受け入れについて考えていきたいと思う。

T・回復支援施設とは(栃木モデル)

 日本における薬物依存回復支援は1985年東京の日暮里にダルク(Drug Addiction Rehabilitation Center)が開設し、長い間唯一の存在として細々と運営を続けてきた。当時の回復プログラムはミーティングと呼ばれるピアカウンセリングが中心であり、これまでの使用経験を共有するものから始まるものであった。アルコール依存症のリハビリ施設の職員であった近藤恒夫は違法である覚醒剤とアルコールに共有できないものを感じ、薬物依存に特化したダルクを開設した。

 その後ダルクで回復した外山憲治が名古屋に2番目のダルクを開設し、同じようにして回復者が次の施設を開設するという形で3番目、4番目のダルクが開設、特に2000年以降は加速化し、全国に展開。現在は50箇所以上のダルクが活動している。またダルク以外の回復支援施設も誕生している。

 栃木ダルクは2003年に24番目に開設されたダルクとして活動をしている。栃木県内に4つの施設を運営し、男性は那須町に初期施設として断薬プログラムを行っている那須TC(トリートメントセンター)、宇都宮市に後期施設として社会復帰プログラムを行っている宇都宮OP(アウトペイシェント)、RH(レジデンシャルホーム)、AH(アフターケアホーム)、那珂川町に中後期施設として重複障害や高齢者を対象として那珂川CF(コミュニティファーム)。女性は宇都宮市に全対応型としてPP(ピースフルプレース)が、それぞれ違った役割をもち互いに連携した回復支援を行っている。全施設26年度の入寮定員は76名で利用率は平均して70%前後であり、入寮時の問題薬物は覚せい剤が47%、アルコールが25%、その他(危険ドラッグ、有機溶剤、大麻、精神薬、市販薬)が28%となっている。(グラフ1)

U・回復システム

 3 Stage Programという階層型で回復するにしたがい3段階にStageが上がる仕組み。Role Modelという施設内にヒエラルキーを形成することにより社会性を身につけるための役割。生活力を評価するLiving Skillという尺度。の3つを組み合わせたものを基本としている。

 日々のプログラムとしてはミーティング(ピアカウンセリング)、T-DARPP(認知行動療法)、作業療法(農作業、山林作業等)社会性獲得(ソーシャルスキル等)などのプログラムを1日に2コマ?3コマ(1コマは90分)を提供している。(図1)

 これまでの活動の中で様々な機関(家族、病院、刑務所、保護観察所、精神保健福祉センター、保健所など)との連携により入り口として入寮までの経路整備はずいぶんと進んできているが、出口としての社会復帰という点ではまだまだ連携やスキルが不十分であると言える。社会復帰後に再発するリスクの一つが職業適性である。社会復帰を焦るあまり、その職業が自分に向いているかより収入の多さに重きをおくため、仕事内容に動機を見出せず、ストレス回避スキルの低い依存者の場合、再使用につながる内的要因となってしまう。これを避けるためにハローワークや少年鑑別所(職業適性、IQ検査など)との連携を始めたところである。

V・理想的な回復の姿

 本人の薬物依存からの回復と家族の理解が重要になる。本人は前述したプログラムを受け、いないケースは別として、家族は家族プログラムを受ける必要がある。

 本人は、刑務所や病院などでの導入プログラム、回復支援施設での本格的なプログラムを受け、社会復帰後も再発のリスクを減らす、また再使用してしまった時の対応として自助グループや相談機関につながっておいて、生涯プログラムから離れないことが完全な断薬よりも大事なこととなる。家族は様々な機関で行われている家族教室などへの参加により、依存症の知識、本人への対応、自身の精神衛生の保ち方などを学び、その後も問題が起きた時の相談先として自助グループや相談機関につながっておくことが重要である。

 さらに回復後の原家族との関係について互いに健康で自立的な関係性をどのように構築していくかについて関係者も入り3者で話し合いを持ち、総合的な家族関係の再構築を図ることが重要である。これらがうまく整うことによって再発のリスクを減らすことが可能になる。

 つまり、覚醒剤で逮捕され、「刑の一部執行猶予制度」が適用された場合、まだ逮捕され間も無く断薬意欲の高いうちに、刑務所内での「薬物依存離脱指導」によって回復支援を受ける大切さや動機を芽生えさせ、出所後に保護観察所における認知行動療法で回復支援プログラムの継続を促し、その後本格的に回復支援施設でのプログラムを自ら動機をもって受講するという一連の流れがスムーズに行われることが重要であり、その側面的な支援を依存症理解とともに家族が進めていくことが理想的である。(図2)

W・自立準備ホームと薬物依存回復訓練委託

 栃木ダルクでは「刑の一部執行猶予制度」が施行される前の先行事業として全施設を保護観察所の薬物依存回復訓練委託による自立準備ホーム(国の委託を受けて収容保護し,社会生活に適応させるための生活指導等を行う施設)の登録を23年にした。同年6月からその制度で受け入れを開始、26年の3月までに46名(男性40女性6、覚せい剤44アルコール2)、常時平均6名(最高11最低2)が利用している。

 自立準備ホームとしての入寮までの流れとしては、本人が刑務所に収監されると、本人と引受についての生活環境調整が保護観察所を通じ書面でダルクに届く、その内容(成育歴・犯罪歴・精神疾患の有無・処方内容等)を確認し、可否の判断をする。可の場合、本人にはダルク利用についての誓約書(満期後のプログラム継続・利用中のルールの遵守等)に記名してもらう。在監中は刑務所内のプログラムを受講し、仮釈放と同時に薬物依存回復訓練委託を受けダルクに入寮、刑期満了時に再度プログラム継続の意思確認をし、自立準備ホームの期限(現制度では出所後6ヶ月)満了と同時に生活保護に移行し、プログラム継続となる。(図3)

 これまでに栃木ダルクでは40数名を薬物依存回復訓練委託で受け入れてきている。現行の制度だと仮釈放期間が過ぎれば本人の身柄は自由になる。仮釈放期間と委託期限(6ヶ月)はほぼ一致せず、大方の場合仮釈放は3ヶ月程度なので、依存症であるという認識すらできていない状態で仮釈放期間満了となる。その時点での回復プログラム継続の意思は低く、途中放棄するケースは約半数である。

 「刑の一部執行猶予制度」施行後には、保護観察付き執行猶予期間中は委託が可能になるため、より長い期間の拘束力で施設にいることが可能になるため、それが回復動機につながることを期待したい。

X・回復支援施設の通報義務について

 保護観察所からの委託を受け、国費によって利用費が賄われる自立準備ホームには、違法薬物使用が認められた場合、当然ダルクに通報義務が生じる。そのことについて少し触れておこうと思う。

 ダルクのような回復支援施設が法務省の自立準備ホームの制度を運用するにあたり、考え方のすり合わせが必要である。回復支援施設は文字通り依存症の「回復」の支援をする場であるため、問題薬物の種類は多岐にわたり、合法か違法かで支援の可否を決めてはいない。あくまで依存症であるかどうかをこれまでの本人の経過の中から判断し支援の対象とする。これに対し刑の一部執行猶予を受けて自立準備ホームを利用する場合、一度刑務所を経験した薬事犯としての利用のため、犯罪からの「更生」保護となり、法務省の予算で自立準備ホームを利用することになる。そのため制度利用中は、違法薬物はもちろん、遵守事項であるアルコールの使用に関しても通報義務が生じる。同じプログラム受けていながら、制度利用者とそうでない者で対応が変わるのである。この差をどう捉えていくかも今後の課題となるであろう。

Y・一般利用者と自立準備ホーム利用者の比較

 前述のように利用者は法的拘束のある者(自立準備ホーム)とない者(一般利用者)が同じ施設で同じプログラムを受けることになる。そのポジティブな面とネガティブな面をこれまでの受け入れ経験から考えてみる。

 ポジティブ面では刑務所での受刑生活で培われた規律、規則正しい生活習慣などが回復支援施設入所後に他の利用者(入所直前まで薬物を使用していた者)と比べるとしっかりと身についているということ。保護観察中であるために保護観察官の面接やSMARPP系プログラムの個別受講、回復支援スタッフには毎日の面接が義務付けられている。また累犯を重ねている者について理由は不明であるが、これまでに回復支援の場に一度も繋がった経験のないケースが多い。ということを考慮に入れると以下の通りである。

ポジティブ面

  • 特に3犯以上の累犯者は、回復支援を受けている者は稀であるが、その機会を得られる。
  • 環境調整の際の情報提供が詳細になったため、利用の可否の判断がしやすく、また利用中の支援にも活用出来る。
  • ダルクの職員と合わせて、保護観察官による定期面接やプログラム受講があるため支援が手厚い。
  • 刑務所で身につけた規則正しい生活リズムがあり、また集団生活にもなじみやすい。
  • 薬物を使用していない期間が、一定程度あるため身体的に健康である。

ネガティブ面では、制度上の問題点、利用者の回復動機の有無、回復支援施設側の受け入れ体制、逆に刑務所を経ることによる問題点と大きな回復要素としての動機の維持をどうしていくかを考慮すると以下の通りとなる。

ネガティブ面

  • 回復訓練委託費には医療費が含まれていないため医療扶助の単体支給が必要であり、制度終了時にプログラム継続の場合スムーズな生活保護への移行が必要であるが、その可否判断が自治体によってばらつきがある。
  • 依存症の回復への動機がなく、単に帰住先のない者が優先的に回復支援施設に入所した場合、他の利用者と互いに悪影響を及ぼしかねない。
  • 回復支援プログラムのある施設とない施設で回復の質に大きな差が出る。
  • プログラム上薬物使用についても、自己申告することは大事な要素であるため、通報義務がそれを妨げる恐れがある。
  • 入所が本人の意思ではなく、また刑務所での生活が薬物使用を過去のものにしてしまうため、回復の動機が低くプログラムが義務的になりがちである。

ポジティブ面、ネガティブ面を踏まえてまとめとしては以下の通りである。

Z・まとめ

  • 医療費の負担や自立準備ホームから生活保護への移行が、自治体によって認識が違うため、統一された支援または新しい制度が必要である。
  • 刑務所から保護観察所、そして回復支援施設まで繰り返しではない連続した回復プログラムになるような各機関の連携が必要である。
  • 刑罰の延長線上ではなく、薬物依存の回復(中間施設としての役割)と対象者が捉えるためには、他の一般利用者と一緒にプログラムを受けることがのぞましく、そのためには一定程度の割合を維持することが大事である。
  • 依存症の回復は完全断薬というより、プログラムから離れないことが重要であるため、地域での関係機関の連携とプログラム終了後の社会資源(就労支援も含めた)の整備が急務である。

日本司法精神医学会抄録

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